正しい人
物語シリーズの中で一番気に入って、一番胸に刺さるのは猫物語。
「お前はなんでも知ってるな」
のあとに
「なんでもは知らないわよ。知ってることだけ」の羽川翼。
めったに本は読まないのにこの小説は読めた。
自分にぶっ刺さって、痛苦なるほど羽川翼に共感できたし
羽川翼を取り巻く人達にも胸を抉られたからだ。
「もちろん、委員長ちゃんのご両親は褒められた人間じゃないさ――話していてそれはわかった。あの人達は、両親であることを放棄している、それは明らかだった。だけど阿良々木くん、彼らの気持ちを理解しないわけにはいかないよ。あれだけ正しい人間と一つ屋根の下で過ごすなんて――しかもそれが自分の娘だなんて、ぞっとする。十何年間、正し過ぎる人間がずっとそばにいたんだぜ。可哀想に、彼らがあんな人間になったのは、委員長ちゃんと一つ屋根の下で暮らしていたからに違いないよ」『猫物語(黒)』256-257p
「たぶんあなたは白過ぎるーー白無垢過ぎる。馬鹿な奴に対して馬鹿のままでいいって言う非情さが、駄目な奴に対して駄目なままでいいっていう残酷さが、きっとあなたには何もわかっていないーーーまして欠点を美徳だと言うのは悪意でしかないことを、理解しようともしていない。マイナスを肯定する取り返しのつかなさがちっとも分かっていない。
すべてを受け入れちゃ駄目なのよ。それをしちゃったら、誰も努力しようとしなくなる。向上意欲がなくなってしまうーーそれなのにあなたは、馬鹿さや駄目さに対して、何の警戒心も持っていない。人からつけ込まれることがわかっていても何とも思わず善行に走り、集団の中で浮いてしまうことがわかっていても論理的であろうとする。そんな恐ろしいことってある
?そんな崖っぷち人生で、よく今まで五体満足で生きてこれたと、その点だけは感心するわ。結論として、あなたはいい人なんじゃなくって、聖人でも聖母でもなくってーー闇に鈍いだけだわ。それじゃあ.....野生として落第よ。」
「いい人なんじゃなくって、闇に鈍いだけ。
闇に鈍いだけ。
落第、落第、落第ーーつまり。
白くて。
白過ぎて。
白無垢で。
白々ーーしい。」『猫物語(白)第三話』
野生として落第。
羽川だけに言えることではないと確信している